最新作
川越し (2025/7)
今回の作品は、葛飾北斎(宝暦10(1760)年~嘉永(1849)年)の鳥羽絵集から、「川越し」を原画としました。この絵は文化年間中期(1808~1813年頃)のものとされます。鳥羽絵は浮世絵の様式のひとつで略画体の戯画を指し、「鳥獣人物戯画」絵巻を描いた鳥羽僧正覚猷からきているとされています。
川越しは、大井川などの渡しなどで知られますが、川越人足(かわごしにんそく)に肩車されたり、連台に乗ったりして渡河したもので、武士も町人も賃銭が必要でした。料金は川の水位によって定められており、天保期の大井川では、一番安い膝下の38文から、脇の下の94文まで何段階かで設定されていました。当時の貨幣価値を知ることは難しいのですが、かけ蕎麦一杯が16文ですから、現代の価格から類推して膝下が約1,200円、一番高価な脇の下で約2,900円程度かと思われます。しかしこれは公定料金であり、川の途中まできて酒手(さかて:チップ)を要求されることが多かったそうです。酒手を渋る客には、水位の深い所でわざと止まって動かなくなったり、体をゆすったりして、要求を通す人足が多かったと言われています。
作品中のご婦人(眉を落としてお歯黒をつけているので、おかみさんですね)は、人足におんぶして貰っていますが、少し重たいのでしょうか、もう一人が肩をお尻の下に入れて助けています。また荷物を運んでいる人足は酒手をはずんでもらったのか、笑っていますね。
制作にあたっては、墨の濃淡で版木を替えるため、肌色も含めて4回刷りました。人足やおかみさんの髷などを細かく彫ったつもりでしたが、刷りの際に墨で埋まってしまいました。なお、昨年にも鳥羽絵を原画とした作品「くつろぐ中間」を制作しています。「これまでの作品」のページでご覧ください。